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第60回セミナー概要(2010年7月29日開催)

メディアが共感する企業広報とは
  事業発展のキーワードは「市民との感動の共有」
木村透氏
【講演者】 読売新聞東京本社 編集局地方部次長
       木村 透 氏

 

木村透氏

私は読売新聞社に入社し27年目を迎えます。新聞社は入社した若手は、全国の地方支局に5〜6年配属され火事や事故、市政や選挙、予算などに携わり、国で起こっているだいたいの事柄をミニチュアで練習できるようになっています。しかし私は茨城県水戸支局にいた5年半、東京での社会部の4年半、その後の遊軍でも事件遊軍で、経済事件が主でした。
したがって企業の広報やPR担当の方とお目にかかる時は、喧嘩腰で取材するケースが多く、あまり仲良くはしてもらえませんでした。
そして札幌のデスクを経て10年前にすでに休刊となった週刊誌「読売ウイークリー」編集部に異動し、記者、デスクに関係なく何でも行いました。ガソリン高騰に合わせ節約運転術やHow toものも数多く取り組みました。この時、映画やミュージカル、本等のページを担当し、売り込みに来る広報やPR担当社とも接点ができました。


その後、新聞の地方部に異動して1年半くらい経ちます。読売新聞は、全体で5000人の社員がおり、そのうち400人が東京本社の地方部員で社内の最大の部となります。東京本社管内は概ね名古屋以北、青森までの各県庁所在地に地方支局があり、それに準じる都市に通信部が配置されています。
地方版は各県3ページあり、それを地方部員の若手記者が書いていますが、記者を社会部や経済部に1週間行かせたり、メモを見ずに現場を見ただけで原稿を作らせたり、入社後の経験に合わせ色々な研修を行います。

 

<密な人間関係づくりが、報道成功につながる>

読売ウイークリー時代、企業の広報やPR担当の方たちとの接点の1つは、プレスリリースでした。朝、会社に行くと、机の上に15〜20センチぐらい郵便物があり、編集部のFAXが一日中プレスリリースを吐き出している状況でしたが、読んで面白いと思った事は少なかったし、電話で「3日前にこういうものをお送りしました」と言われても、覚えていないことの方が多かったと思います。映画やイベントのプレスリリースでは、最上級の形容詞の羅列で、「大絶賛」「大好評」と‘大’がついて、どれがどれだかわかりませんでした。プレスリリースをきっかけに何かが起こったことは、8年の間、あまり無かったと思います。


月曜日発売の週刊誌なので、週後半は締め切りが迫って忙しいのですが、月火水はイベントや新商品を売り込みに来る方と、時間の許す限りお目にかかりました。面白ければ記事にしますから。その時、普通は名刺交換して世間話から入りますが、「読売ウイークリーの、誰それさんの連載が好きです」とか「この間出ていたレストランは、私もよく行きます」とか、お世辞でも言ってもらえると、いい気分で話を聞けました。

映画のPRの方もたくさん来られました。見開き2ページで1ページ4本ぐらい、映画のシーンとコメントを紹介していましたが、作戦を練ってくる人もいました。小さな映画のPR会社の女性で、女子プロレスのドキュメンタリー映画の持ち込みでした。読売ウイークリーの読者は若くても35、40才なので女子プロレスはどうかと思いました。映画自体もB級の感じで、話を聞いて少し難色を示したら、彼女は「女子プロの選手たちは共同生活をしていて、犬を拾ってみんなで飼っています。その犬をペットのページで紹介してほしい」と言いました。それは読者応募の、自慢の犬猫などを掲載する、半分読者サービスのようなページでした。割と毎週似通っていましたが、その回だけは女子プロレスラーがリング上で、犬を抱っこしているという、大変インパクトの強い写真で、丸ごと1ページその写真と、レスラーの練習や生活等を書いて、それが今映画に、という記事になりました。彼女の作戦勝ち。相手をよく調べて、ここがだめならこう攻めようと考えてきたのでしょう。
その彼女とはその後も付き合いが続き、最初は小さなPR会社でしたが、転職して最後は大きな会社の広報担当に。一回そういう人間関係ができると、次は「彼女が持って来る話だからいいか」と載せやすくなります。

また警視庁の記者クラブは、各社の事件に強い記者の激しい競争の毎日です。警官の数は決まっていますから、特ダネを取るには、十数社のライバルと警官の落とし合いをします。涙ぐましい、自分の檀家を作る努力です。巨人ファンの警官が多いので、社内販売でチケットを買って「余っているから」といって配ったりもしました。
夜も朝も、警官の家に行きます。新聞の締め切り間近の午前1時頃にクラブに戻り、家に帰ると、早くても2時とか2時半。毎朝5時頃には家を出て、駅前で警官の出勤を待ち構え、事件のことを聞いたり。日曜日は早起きはしませんでしたが、警官の家を回って中学生の娘の家庭教師を。その人たちと仕事上の関係はもう無いですが、今でも付き合いは続いています。ある人の場合、日曜日に行くと昼ご飯を食べさせてくれ、そのまま散歩に行って夜もそこで酒を飲んでいたところ、中学生の娘が襖の間から睨んでいました。せっかくの日曜日なのにまた来たと。しばらくしてその方は亡くなり、私は情報が取れなくなりましたが、その後も相談を受けていました。その娘は高校から大学生、OLになり、彼氏ができるたびに連れてきてこいつはどうだみたいな話をし、今は二児の母になり、子供が生まれるたびに見せに来る濃厚な関係です。刑事の奥さんに、離婚の弁護士を紹介してといわれて世話したこともあります。今の若い記者もお金は使わないでしょうが似たように努力して、自分の味方を作るのに一所懸命です。

 

<新聞社が始めた、市民との協働企画>

いい事をしたら報道されて広く知られたいと思うのは、どの企業も同じでしょう。読売のデータベースに、一昨日、ユニクロが自社製品の常時回収を始め、国連難民高等弁務官事務所を通じて発展途上国に寄贈等の記事がありました。7日の北海道版では、北洋銀行が希少動物の保護を目的とした基金を設立、など、割とたくさん記事はあります。そういう意識を持たない会社は生きていけないご時世ですから、どこの会社も同様でしょう。


しかし記事にはなかなかならない。成果をプレスリリースにしても、一社の動きを取り上げることはほとんどありません。北洋銀行の記事は別ですが、ユニクロの場合、ひとつの記事にユニクロ、オンワード樫山、丸井、イオンが出てきます。一社の話でなく、うちはこう、あそこはこう、これは世の中の動きだといえば通りやすいと思います。

さて新聞社では、ここ数年広告が減り経営がどこも苦しくなり、社員の給料も下がり、ボーナスカットと、他社と同様の状況です。例えば夕刊は上に記事、下に広告というページが多かったのですが、今は上に国際記事で下がスポーツ。広告が入らないから、ページを減らしています。バブルの頃は逆で、広告を入れるためどんどんページを増やしたこともありました。
ところが新聞社は入社時から記者と、販売・広告等のお金を稼ぐ人とに分かれ、人事交流もほとんどないため、会社が大変になったからといって、お金を稼ごうという記者はほとんどいません。経費を多く使った記者が豪傑ともてはやされた時代が、ついこの間までありました。今はかすれたサインペンを持っていかないと新しいものをくれず、会社から「編集局も販売局や広告局と協力を」と言われます。そこまで露骨ではないですが。社会部の記者の時は、広告局等から何か言ってくるのはけしからん、編集に口を出されては困るという気持ちでした。協力など一度も考えたことがない記者が大半という、記者にとって幸せな時代だったかもしれませんが、そんな時代は終わりました。
しかし手探りで始めようとしています。人数を抑えて電子新聞を作るところもあれば、ITの商売もあるでしょう。記者には新聞を売ろうという意識は毛頭ありませんが、読売ウイークリーでは、月曜日に発売し水曜日には何%売れたかの数字が出ますし、所帯も小さくて自分が作ったような感覚でしたから、どのくらい売れたかを大変気にして、毎週月曜日の夕方には東京駅のキオスクを何軒も回り、その売れ行きに一喜一憂していました。
読売ウイークリー時代から、編集と広告と販売とで取り組む、販売以外の収入の道を考えていました。その1つは「自然しらべ」。収益目的だけではないですが。日本自然保護協会というNGOが以前から子供たちに自然を調べてもらい、そのデータを集計して発表していて、読売ウイークリーで一緒にやることになり、3年前、夏休みにセミの抜け殻を集めてもらいました。大きさや色でセミの種類がわかるそうで、早分かり表を読売ウイークリーに載せて参加を呼びかけたところ、全国から2万個の抜け殻が集まり、それを専門家に分析してもらいました。するとクマゼミという西日本に多いセミを、子供たちが埼玉や東京で見つけました。数は少なかったですが、もしかしたら地球温暖化のせいかも知れないという話が取れたので、社会部に持っていき、夕刊の社会面のトップ記事になりました。子供たちの調査でも、数が集まればそれなりの立派な報告ができます。そこに協賛を募って広告をいただきました。
読売ウイークリーが休刊し、今度は新聞で。読売ウイークリーの販売部数はせいぜい約8万部ですが、読売新聞の全地方版を使えば1000万部なので影響力はまるで違うと上司を説得し、去年は「湧き水」を調べました。これはハードルが高くて、データ数はさほど多くなかったですがそれなりの結果になり、地方版展開とは別に協賛金を得て、全国版全面の告知記事と夏休み後に結果の記事を載せることができました。広告も取れたので会社の収入になったし、子供たちの科学的で立派な教育プログラムとなりました。今年は川にすむ鳥や虫を見てきてもらい、全国の地方版で展開しようと思っています。

 

<企画立案段階から、メディアに協働を持ち掛けてはどうか>

先ほど、企業活動はなかなか紙面に載らないと話しました。出来上がった企画を持ち込まれて「一緒にやりませんか」といった場合は協賛金、事業費が必要ですが、組み立て段階から読売も参加していれば、自分たちの宣伝にもなるので記事は出ます。それが例えば本になれば、告知記事も載ります。そのように、メディアと一緒に何かをやれば、非常に効果的なのではないでしょうか。


お手元の資料は、「商店街ルネサンス」という、読売新聞全県版で今展開している地方部の年間企画です。地方の商店街にはシャッター通りも多いですが、そこを応援して地域経済が少しでも活性化することが目的で、このような記事が、各地方版に載っています。商店街に人が集まってモノが売れるようになれば、それはいいことですが、例えば最近お年寄りに関して、「買い物難民」という言葉があります。駅前商店街は閉まってばかり、郊外の大きなショッピングセンターには車がないから行けない、ということが地方ばかりか東京でも問題化しています。そこで商店街の空き店舗と読売の販売店を使って、買い物難民解消に何か出来ないかと。あるいは商店街に子供たちを連れてくれば、みんなで見守れるとか、商店街が地域の絆、近所づきあいの発達の核になってくれればという思いを込めて、連載しています。例えば今売り出し中ぐらいの歌手に、商店街のちょっとしたイベント会場に来ていただいて、チャリティーオークション等をしてもらう。そこに参加すればアイドルグッズが買える、参加するには商店街で1000円商品を買って参加券をもらうとか。売り上げは地域の児童福祉センターに寄付するとか。ひとつ、クリスマスにやろうと思っています。うまくいけば次はバレンタインデーにと。
この企画自体は来年3月までの1年間なので、その後には読売系列の出版社に本にしてもらえたらなおいいかと。まだ具体的な話はないですが。
この企画、興味のある方は、ぜひご一緒ください。そのほかでもご提案があれば、別に読売でなくても、朝日も毎日も人が集まって少しでもお金になることをと思っているので、今は新聞社を巻き込むにはいい時期という気もします。今までは企業は出来上がったものを売り込むことが多かったでしょうが、これがうまくいけば面白くないですか、という案を企画段階で持ちかけられてはいかがでしょう。

 

参加者:色々な町おこしの取り組みの中で、これを記事にしよう、これは止め
     ようという境目はどんなところでしょうか。

木村氏:各支局の若手記者が事例を探してきて、デスクが選びます。しかし
     東京の地方部でこの基準で選べとは言っていません。地域の事情に
     合わせてやってくれればいいと。
     商店街がいかに困っているかを取り上げるのではなく、商店街再生の
     きっかけにと考えているので、前向きな事例であり、登場する人も
     愚痴ばかりこぼすのではなく、前向きで面白い人だといいのかなと。
     そんなところから順番に取材にいくでしょう。


参加者:市民と共有できる感動とはいったい何かを、もうひとつ伺いたいです。メディアから見て、市民の求めているもの、
     絆とは何でしょうか。また日本の都市の再生、日本人が元気になるような共有できるものは何でしょう。

木村氏:例えば社会部では悪人を叩けというスタンスで、紙面もそのようになっていましたし、取材の訓練も、世の中の悪が
     どこにあり、それをどう穿り出すか長くやっていました。それが少しずつ変わってきて、例えば読売社会面に毎日、
     「幸せ小箱」というちょっといい話が載っています。地方版では「ほほえみ便」という名称で、昔なら記事にならなかっ
     たようなちょっといい話みたいな内容です。また女性限定で、読者にタウンレポーターという名前の記者になって記事
     を書いてもらっています。今までの我々だったらとても書かなかったようなちょっとしたほのぼのした話題等が紙面の
     潤いとして載っています。これはここ3〜4年のことで、紙面作りの哲学も少しずつ変わり、警察、事件、県庁の発表
     ばかりでなく、読者の要望や喜びを共にしたいという意識を持つようになってきました。
     商店街ルネッサンスも、商店街が核となっていい話が出てくれば。お金が儲かったでも、人が集まったでもいいで
     しょう。お年寄りの買い物を助けるシステムができたという記事がどこかで出て、それが広がっていけばいいと思って
     います。

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